レーザーの速さで金属の性格が変わる?|金属3Dプリントは「材料を設計する技術」へ

もし金属の性質を、あとから自由に調整できるとしたら?
あるときはセラミックのように硬いけれど割れやすく、またあるときはクリップのように曲がるけれど折れにくい。そんな「性格の違う金属」を、同じ材料から作り分けられたら——
実は今、そんな未来にかなり近づいてきています。
先日、アメリカの Lawrence Livermore National Laboratory(LLNL) の研究チームが、金属3Dプリント中のレーザーの動かし方だけで、金属の性質を変えられることを実証しました。この研究成果は、材料分野のトップジャーナル Advanced Materials に掲載され、注目を集めています。
主役は「ハイエントロピー合金」
今回の研究で使われたのは、ハイエントロピー合金(HEA)と呼ばれる金属材料。
これは、アルミ・クロム・鉄・ニッケルなど複数の元素をほぼ同じ割合で混ぜた合金で、従来の合金とはまったく発想が違います。
今回対象となったのはAlCrFe₂Ni₂(アルミ・クロム・鉄・ニッケル)系の共晶HEA。
HEAの面白いところは、とても強靭で、高温に強く、組織(中の構造)を変えると性質がガラッと変わるという「素材としての伸びしろ」が異常に大きい点です。
カギは「冷えるスピード」
研究チームが注目したのは、金属が溶けてから固まるまでの“冷える速さ”でした。
金属3Dプリント(レーザー粉末床溶融法など)では、レーザーで金属粉末を溶かし、すぐに冷やして固めます。
ここでポイントになるのが レーザーの走査速度。
レーザーが「ゆっくり」の場合、金属はゆっくり冷えます。これは原子が動く時間がたっぷりあり、元素ごとに分かれた「複数の相(フェーズ)」ができるからで、その結果、硬いけどやや脆い構造となります。
逆にレーザーが「速い」場合、金属は一気に冷えます。原子が動くヒマがなく、分離せず、均一な構造のまま固まるため、結果としいてしなやかで粘り強い構造になります。
つまり、レーザーのスピードを変えるだけで、金属の中身が別物になるというわけです。

(Photo: Needpix.com)
「非平衡状態」をあえて作る
LLNLの研究者、Thomas Voisin氏はこう説明しています。
冷却が速くなるほど、原子は安定した配置に並び替える時間を失います。その結果、材料は“非平衡状態”のまま凍結され、それが新しい構造と力学特性につながるのです。
難しく聞こえますが、要するに「本来なら落ち着くはずの並びになる前に、無理やり固める」というイメージ。
この“無理やり感”をコントロールできるのが、金属3Dプリントの強みでもあります。
1つの材料から、性格の違う金属を作る
この研究がすごいのは、材料は同じ、成分も同じ、違うのは「レーザーの速さ」だけ。それにも関わらず、硬さ、粘り強さ、変形のしやすさといった性質が連続的に変えられることを示した点です。
速度ノブを回すだけで、ほぼ別の金属になってしまう。ここが画期的です。
これまでも、急冷による微細組織、結晶粒の微細化、従来製法では不可能な構造といった点で、金属3Dプリントは注目されてきました。
しかし今回の研究が示しているのは、3Dプリントが「材料研究そのもののプラットフォーム」になり得るという可能性です。
試行錯誤で合金レシピを何十通りも作る代わりに、同じ材料かつ同じ装置で、プロセス条件だけを変えることで、性質を“プログラム”できる。
これは、航空宇宙、エネルギー、医療、ロボティクスなど、高性能金属が求められる分野にとって大きな意味を持ちます。
これからの金属AMは「設計」が主役になる
Voisin氏はこうも語っています。
私たちは今、金属3Dプリントの“急冷”という特徴を最大限に活かし、新しい材料を設計できる段階に来ています。
金属3Dプリントは、「形を作る技術」から「金属そのものをデザインする技術」になりつつある。今回の研究は、その転換点をはっきり示していると言えそうです。
