平面が立体に“変身”!少ないエネルギーで形が変わる新しい3Dプリント技術
宇宙に巨大なアンテナや構造物を持ち込むには、コンパクトに折りたたんで持っていって、現地で展開するのが理想——そんな夢を叶えるかもしれない新技術が、米・イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校で開発されました。
航空宇宙工学の博士課程に在籍するIvan Wuさんと指導教官のJeff Baur教授によって進められたこのプロジェクトでは、「連続炭素繊維」と「省エネ型レジン」を組み合わせることで、平面の2D構造から立体的な3D形状へと“形を変える”構造体を作ることに成功しています。
2Dから3Dへと変換させる鍵は「熱」です。
フロントポリメリゼーションという化学反応
この技術では、まず髪の毛ほどの太さの炭素繊維を束にして3Dプリント。その繊維束を紫外線で軽く硬化させたあと、液体レジンで包み、凍結保存します。
そして必要なときに低エネルギーの熱で加熱すると、「フロントポリメリゼーション(前方重合反応)」という化学反応が起き、想定された3D形状へと変形していきます。
たとえば、らせん状の円柱、ねじれ構造、円錐、鞍型(サドル形状)、放物線型ディッシュなど、5種類の異なる形状を成功させています。

「逆問題」に挑んだ数学モデリング
Wuさんがまず直面したのは、「欲しい3D形を作るために、どんな2Dパターンを設計すればいいのか?」という逆算の課題。数学的なモデルを自ら作成し、2Dから3Dへスムーズに変形するための正確なパターンを導き出しました。
このアイデアは、日本の「切り紙(キリガミ)」アートから着想を得たとのこと。切り込みと折りを駆使して新しい形を生み出す日本の技法が、先端宇宙技術と見事にリンクしたかたちです。
伝統的な装飾の中に先端技術を切り開くヒントが眠っていたというのは、今後のイノベーションにおいても示唆的です。

最終用途は“金型”としての応用?
今回の構造体は、宇宙構造物として最終的に使うには剛性がまだ足りないものの、「展開後の形をベースに、もっと頑丈な部品を作るための金型として活用できる」とWuさんは語っています。
この研究はアメリカ空軍研究所の支援を受けて現在も進行中とのこと。論文は『Additive Manufacturing』誌に掲載(DOI: 10.1016/j.addma.2025.104911)されています。
