3Dプリントで“できる”を増やす――カナダの小さな工房が生んだ大きな一歩
カナダ西部サスカチュワン州のウォーマンという街で、一人のメイカーが3Dプリント技術を使って障がいのある人の生活を支える道具づくりに取り組んでいます。
その人の名前は ニコラス・ヴォーゲン(Nicolas Vaagen)。
2020年に交通事故で大きなけがを負ったことをきっかけに、彼は「自分と同じように困っている人たちの力になりたい」と、日常生活を少しでも楽にする“支援ツール”の開発を始めました。
“個人の挑戦”から“地域のプロジェクト”へ
なんでもこの活動、最初は自分のための試みだったそうですが、今では地域ぐるみのイノベーションと共生のプロジェクトへと発展しています。
ヴォーゲンは手頃な3Dプリンターとオープンソースの設計データを活用し、一人ひとりの身体の特徴や使い方に合わせてオーダーメイドの支援具を製作しています。
作品の中には、爪切りを固定して片手でも使えるようにしたスタンドや、ゲームコントローラーを操作しやすくするアタッチメントなど、生活のちょっとした不便を解消する実用的で温かみのあるアイデアが並びます。
デジタルファブリケーションの力で、「誰かの暮らしを変える小さなデザイン」が生まれているというのは、掛け値なしに素晴らしいことです。

“Makers Making Change”との協働で広がる支援の輪
ヴォーゲンは現在、Neil Squire Societyが運営する「Makers Making Change」というプログラムに参加しています。
この仕組みは、支援ツールを必要とする人と、それを作るボランティア・メイカーをつなぐコミュニティ活動です。
3Dプリンティングの柔軟さを活かし、サイズ・形・持ちやすさを一人ひとりに合わせて微調整。
金型も量産ラインもいらないため、低コストで迅速な製作が可能です。
結果として、必要としている人に“ぴったり”の道具をすぐに届けることができるように。誰かが始めた小さなアクションが徐々に大きくなっていく。これこそ草の根のDIYですね。
小さな工房から生まれる大きな変化
ヴォーゲンのワークショップは小規模ながら、「新しいものづくりが福祉を変える」ことを実証する場になっています。
最近では、関節炎の人でも使いやすいドアハンドルアダプターや、指先の力が弱い人がカードを持ちやすくする軽量スタンドといったプロダクトを開発。
素材や形状を変えながら、「どうすればもっと使いやすく、もっと自分らしく暮らせるか」を探り続けています。
カナダでは、障がいのある人の約3分の1が支援機器を十分に利用できていないといわれています。そんな中、ヴォーゲンのような取り組みは、“テクノロジーと地域のつながり”がそのギャップを埋められることを示しています。
3Dプリントを社会貢献に活かすこの活動は、「ローカル発のイノベーションが、アクセスの壁を壊す」という新しい可能性を教えてくれているようです。
画像引用:CBC Canada
