3Dプリンター業界、2025年は成熟の年|再編進む市場と未来への布石
3Dプリントに関する最新ニュースをお届けする本欄、2026年最初の記事として今回は昨年2025年の3Dプリント業界の動向をまとめてみたいと思います。
2025年は、3Dプリンター(積層造形)業界にとって大きな転換点となったと言えます。かつての急成長期やブームが一段落し、市場は“成熟”の段階に入りつつあります。
特に目立った動きとしては、この一年で企業の合併・撤退が相次いだこと。この動きにより大手メーカーは一層製品と技術の幅を広げています。
また中国企業の存在感が飛躍的に増し、3Dプリンターは航空宇宙・防衛といった最先端分野で本格的に活用され始めています。一方で食品や建設などのユニークな分野では、進展したものもあれば足踏み状態のものも見られました。
以下ではこうした2025年のAM業界動向を振り返りつつ、2026年に向けた展望を解説してみたいと思います。
1. 市場全体の成熟と再編(企業買収・撤退など)
2025年、3Dプリンター業界は拡大路線から整理・再編の段階へと移行しました。過去数年の過剰な期待や投資ブームが沈静化し、各社は実用性と収益性を重視する姿勢にシフトしています。その象徴となったのが業界内の合併・買収、そして事業撤退の相次ぐ動きです。
大手ではイスラエル企業ナノ・ディメンションによる米デスクトップ・メタル(Desktop Metal)買収劇が話題となりました。同社は金属積層造形の有望株だったDesktop Metal社を巡り法的紛争の末、2025年に買収を完了。しかし直後にDesktop Metal社は経営破綻し、技術資産は新たな投資ファンドに引き取られるなど、一連の混乱は業界再編の象徴とも言えます。また産業用プリンター老舗同士の統合もあり、例えば米ExOne社と独voxeljet社はホールディング傘下で統合されました。
一方、競争環境の厳しさから市場撤退する企業も目立ちました。独アーブルグ(ARBURG)社は自社開発の樹脂3Dプリンター事業を2025年末で終了すると発表し、本業の射出成形機に専念する道を選びました。さらに工作機械大手の独トルンプ(TRUMPF)社もAM部門を売却し、事実上この分野から手を引いています。スタートアップ企業では、スペイン発のBCN3D(ビーシーエヌスリーディー)社が資金難で破産申請を行うなど、中小プレーヤーの退場も相次ぎました。

独アーブルグ(ARBURG)社は自社開発の樹脂3Dプリンター事業を2025年末で終了すると発表
こうした動きは、市場が「選別の段階」に入ったことを示していると言えます。ユーザー企業は単なる新奇性ではなく実績と信頼性を求め、投資家も将来性より確実な収益を重視するようになりました。その結果、技術や顧客基盤の強い企業に市場が集約され、残ったプレーヤーはより堅実な経営姿勢を取るようになっています。派手さは減ったものの、逆に言えば少数精鋭で安定した産業基盤が築かれつつあるのが2025年の市場全体の姿でした。
2. 大手メーカーの技術・製品ポートフォリオの多様化
業界成熟に伴い、主要メーカー各社は自社の技術や製品ラインナップを拡充する戦略を強めました。「ハード(造形機)単体では生き残れない」との認識から、幅広い方式や材料に対応し、トータルソリューションを提供できる体制づくりが進んでいます。
例えば、3Dプリンターメーカーの草分けであるストラタシス(Stratasys)社は2025年、新たに金属やセラミック造形分野へ本格参入しました。同社はイスラエルの新興企業トライトーン・テクノロジーズ社との提携により、樹脂型を用いて金属部品を造形する独自プロセスを導入。これにより従来の樹脂プリンター技術に加え、金属粉末を用いた造形技術をポートフォリオに取り入れています。またストラタシスは大手化学メーカーBASF社の3Dプリンタ材料部門(フォワードAM)を買収し、自社で扱う樹脂・樹脂フィラメント材料の種類も大幅に増やしました。ハードから材料まで網羅することで、航空宇宙や医療など高要求の顧客ニーズにワンストップで応えようとしています。
他の大手も同様です。米HP社はこれまで主力としてきた多目的樹脂造形(MJF方式)に加え、新たにフィラメント(熱溶解積層)方式の産業用3Dプリンター「HP IF 600HT」を2025年に発表しました。高温エンジニアリングプラスチック対応のこの機種投入により、HPは樹脂粉末造形だけでなくフィラメント方式による高耐熱部品製造という新領域を開拓しています。さらにプロ向けFDM機で知られるレイズ3D(Raise3D)社は、2025年に初の粉末焼結方式(SLS方式)3Dプリンターとなる「RMS320」を発売し、自社製品群に新しい方式を追加しました。同社はこれでフィラメント造形、光硬化樹脂造形、粉末造形の三つの方式をカバーすることになり、プロ市場での総合力をアピールしています。
このように、大手各社は複数の造形プロセスや幅広い材料に対応する製品ポートフォリオを揃え始めました。単一の技術に依存せず、用途に応じて最適なソリューションを提案できる体制は、市場の成熟したニーズに応えるうえで不可欠です。加えて、3Dプリンター本体だけでなく専用ソフトウェアやサービス提供にも力を入れ、エコシステム全体でユーザー企業を支える戦略が鮮明になっています。大手による製品・技術ポートフォリオの多様化は、ユーザーにとっても選択肢が広がる歓迎すべき動向と言えるでしょう。
3. 中国勢の台頭とグローバルシェアの変化
2025年、「メイド・イン・チャイナ」の意味合いが積層造形業界でも大きく変わりました。これまでは低価格路線の印象が強かった中国メーカーが、いまや技術力と規模で世界をリードしつつあります。グローバル市場における中国勢の台頭は、業界シェアの地殻変動を引き起こしています。
その勢いを象徴したのが、ドイツ・フランクフルトで開催される世界最大級の3Dプリンター見本市Formnext 2025です。出展企業数で中国企業は95社と、米国企業(54社)を大きく上回り、会場でもひときわ大きな存在感を放ちました。中国企業の巨大ブースが立ち並ぶ様子に、かつて欧米が中心だったAM業界の勢力図変化を実感した関係者も多かったようです。
特に注目を集めたのは、SK本舗でも取り扱っている中国発のデスクトップ3DプリンターメーカーBambu Lab社です。同社は高度な自動化機能と使いやすさを兼ね備えた高性能デスクトップ機「H2シリーズ」を2025年に投入し、“3Dプリンターを誰にでも手の届く存在にする”という価値提案で世界中の個人・教育ユーザーを魅了しました。Bambu Labは中国国内に体験型の直営店をオープンするなど、これまで業界にない積極的なマーケティング戦略も展開。結果、低価格帯3Dプリンター市場で世界トップクラスのシェアを獲得し、子供や初心者を含む新たなユーザー層を開拓しています。

Bambu Labの商品ページ
https://skhonpo.com/collections/3d-printer_bambu-lab
また、中国勢の躍進はデスクトップ機に留まりません。産業用分野でも、中国企業は高い技術力を示しています。例えば金属3Dプリンターでは、中国のBLT(ブライト・レーザー・テクノロジーズ)社やファーソン(Farsoon)社が大型マルチレーザー機を開発し、その性能は欧米製に匹敵すると評価されています。電子ビーム方式で実績のある日本のJEOL(ジェイオール、日本電子)社や、中国の新興企業QBeam社・Sailong社など、これまで欧州企業が独占していた特殊方式にアジア勢が参入する動きも見られました。
さらに、中国政府の手厚い産業支援もあり、複数の国内メーカーが安価ながら高性能なプリンターを次々と市場投入しています。事実、中国からの3Dプリンター輸出台数は年々急増しており、世界の出荷台数の過半数を中国製が占めるとのデータもあるほどです。
この結果、3Dプリンター産業における地域別シェアは大きく変化しました。20年前は市場収益の約半分を北米が占めていましたが、いまや中国がそれに肩を並べるまでになっています。欧米企業も中国勢の追い上げに危機感を募らせており、優秀なエンジニアが中国企業に移籍する例も出ています。「中国はコピー品ばかり」という先入観は通用しなくなったと言えるでしょう。中国企業は独自技術の特許出願も活発化させており、技術面でもリーダーシップを握りつつあります。2025年は、AM業界の主役がグローバルに多極化し、中国がその一角を担うことがはっきり示された一年でした。
4. 航空宇宙・防衛分野での本格導入
2025年、3Dプリンターはついに航空宇宙および防衛(軍事)分野で本格実用段階に入りました。これら高度に規制された分野での積層造形技術の定着は、業界にとって大きな前進です。
まず防衛分野では、世界的な地政学リスクの高まりを背景に、各国軍事機関が3Dプリンター導入を加速させました。特に米国では、国防総省(DoD)が大型産業用3Dプリンターを相次いで調達し、兵站(ロジスティクス)や兵器開発に役立てています。部品の現地即時生産が可能になることで、補給網の短縮やコスト削減につながるためです。実際、米空軍基地では民生用の安価な卓上3Dプリンターを活用してドローンの部品を内製化する試みも始まりました。安価でも必要十分な造形品質が得られるケースでは、従来の軍需調達プロセスを覆す画期例として注目されています。
2025年後半には、米国の国防権限法(NDAA)において「積層造形を国家の重要インフラ技術とみなす」条項が初めて盛り込まれました。これにより国防用途で使う3Dプリンターには厳格な安全・品質基準が適用されることになり、一段と制度面での整備が進んでいます。同時に、この法律では安全保障上の観点から「中国やロシアなど特定国に由来する3Dプリンター機器は米国防省で使用禁止」とも定められました。つまり、自国製で信頼できるAM技術を確保することが国家戦略と位置付けられたのです。3Dプリンターが軍事インフラの一部と公式に認められたことは、業界にとって大きなターニングポイントと言えるでしょう。
次に航空宇宙分野でも、積層造形の活用がいよいよ本番段階です。2025年は航空機エンジンやロケットエンジンへの3Dプリント部品適用が相次ぎました。例えば米国の新興ロケット企業が開発した小型ロケットでは、エンジン主要部品の多くに金属3Dプリント品が採用され、実際の打ち上げテストで成功を収めています。欧州でも、航空機エンジンメーカーが積層造形製の燃焼器やブレードを試験運用し、高温・高負荷環境での信頼性を実証しました。こうした成果は、近年の金属AM技術の進歩によって従来は難しかった高強度・耐熱部品の造形品質が飛躍的に向上したことを物語っています。

さらに宇宙空間での3Dプリントにも進展がありました。2024年末に欧州宇宙機関(ESA)が無重力下で世界初の金属3Dプリント実験を成功させましたが、2025年はその追試や新素材の実験が続けられました。将来的に宇宙ステーション上や月面基地での部品自給を目指す動きの一環であり、日本を含む各国の研究機関や大学も参画しています。
このように、防衛・宇宙という**「失敗の許されない」分野で3Dプリンターが信頼を勝ち得た**ことは、技術が成熟期に入った何よりの証拠です。厳しい品質基準をクリアすることで、積層造形は試作ツールの枠を超え、実戦配備・実運用のフェーズに入ったと言えるでしょう。今後はこれら分野で培われたノウハウが他産業にも波及し、より広範な製造領域で3Dプリンターが当たり前に使われる道が開けてきました。
5. その他の分野の進展と停滞
航空・防衛が活況を呈する一方で、その他の新興分野における3Dプリンター活用には明暗が分かれた一年でもありました。特に話題性の高かった食品と建設という二つのジャンルについて、その動向を振り返ります。
食品分野では、近年「3Dフードプリンター」に関するニュースが相次いでいましたが、2025年はややブームが落ち着いた印象です。過去にはチョコレートやペースト状食品を積層して料理を作るベンチャーが多数登場し、“未来のキッチン革命”としてもてはやされました。しかし2025年現在、一般家庭のキッチンに3Dプリンターが並ぶ光景はまだ現実になっていません。研究開発自体は続いており、高齢者や嚥下障害の方向けにやわらかい食材を積層造形で作る試みなど、有用な用途は模索されています。ただ、食品という性質上、安全性・衛生面の規制も厳しく、大量生産やコストの課題も残っています。このため「食の3Dプリント革命」にはやや時間がかかりそうだというのが2025年時点での正直なところでしょう。
一方、建設分野における3Dプリンター活用は着実に前進しています。コンクリートを層状に積み上げて建物を造る「3Dプリント住宅」は、世界各地で実証プロジェクトが進みました。2025年には欧米や中東で3Dプリンター建設のモデルハウスや小規模施設が複数完成し、建築基準法や規制の整備も各国で議論が進んでいます。特に今年注目されたのは、持続可能性(サステナビリティ)を意識した材料開発です。使用済みコンクリートの再生骨材や藁などの有機素材を混ぜ込んだ「グリーンなインク(材料)」が試され、従来より環境負荷を減らした3Dプリント建築を目指す動きが加速しました。イタリアの大型造形スタートアップ企業Caracol(カラコル)社は約40億円の資金調達に成功し、欧米や中東で事業拡大を計画しています。こうした資金流入も、建設AM分野の将来性に期待が高まっている証拠と言えるでしょう。
この他にも、医療・バイオ分野では2025年も引き続き進展がありました。患者個別にカスタム造形した人工骨や、バイオプリンターによる組織作製など、医療応用は着実に成果を上げています(実用化には安全性検証が必要なため段階的ではありますが)。また教育やホビーの領域では、前述の低価格高性能プリンターの普及もあって、3Dプリントがより身近なものになりました。
総じて、新規性の高い分野ほど実用化には時間がかかるものの、2025年は取捨選択の一年だったと言えます。実現可能性の高いアイデアやニーズ主導のプロジェクトは着実に前進し、そうでないものは熱が冷める──業界全体が実務志向に舵を切る中で、各分野の明暗がよりはっきりしてきた印象です。
6. 2026年への展望
以上、2025年の3Dプリンター業界は「成熟と再編」の一年でした。スタートアップ乱立と過剰な期待に沸いた時期を経て、生き残った企業は現実的な価値提供にフォーカスするようになりました。市場には少数精鋭の体制が整い、ユーザー側も本当に使える技術・サービスを見極めて導入する段階に入っています。産業の基盤が落ち着いたことで、逆にここからが本当の成長フェーズとも言えるでしょう。
2026年に向けて、業界はどのような展開を見せるのでしょうか。まず、2025年に進んだ業界再編の流れは引き続き続くとみられます。技術やシェアで先行する大手企業が中心となり、市場をリードしていく構図が鮮明になるでしょう。ただし、新たなスタートアップが完全に現れなくなるわけではありません。成熟した大手の隙間を縫うように、革新的な材料開発やソフトウェアソリューションなどニッチ分野での挑戦も続くはずです。
技術面では、さらに生産性と自動化がキーワードとなります。2025年に各社が拡充したマルチレーザー高速造形機や、大量プリントファーム(プリンターをずらりと並べた工場)の運用など、量産志向の活用が本格化してくるでしょう。またAIやシミュレーション技術との連携も深まり、造形プロセスの最適化や不良予測といった面で効率化が進むことが期待されます。
需要面では、航空宇宙・防衛での成功が他産業へ波及する可能性があります。例えばエネルギー分野(発電所のタービン部品など)や重工業、そして医療機器や歯科といった分野で、2026年は積層造形の採用が加速するかもしれません。各国政府もサプライチェーン強靭化や環境負荷低減の観点からAM技術への支援を強める動きがあり、産官学連携による研究開発も活発化しそうです。
そして忘れてならないのが中国勢のさらなる猛追です。2025年に存在感を示した中国メーカーは、2026年には製品・技術の面でも一段と進化してくるでしょう。価格破壊と技術革新を武器に、グローバル市場での競争は一層激しくなると予想されます。欧米や日本のメーカーにとっては挑戦の年となりますが、裏を返せば競争が技術全体の底上げにつながる好循環も期待できます。
総じて、2025年は業界が現実路線へ舵を切った年でした。その流れを受け、2026年は「地に足の着いた成長」を遂げる年になるでしょう。かつて夢物語と言われた3Dプリンター技術は、いまやものづくりの当たり前の選択肢の一つになりつつあります。新たな年には、成熟した土台の上でどんなイノベーションが花開くのか。引き続きAM業界の動向から目が離せません。
