
2025年最新!一般ユーザー向け3Dプリンター素材ガイド
素材選びで広がる3Dプリントの世界
3Dプリンターで何かを作ろうと思ったとき、「どの素材で造形するか?」がとても重要になります。私自身、初めてプリンターを使ったときは「とにかく失敗を減らしたい!」と思い、一番扱いやすいと聞いたPLA素材を選びました。結果、大正解でした。PLAは反りにくく失敗が少ないので、初心者には断然おすすめの素材です。
一方で、作りたいものや使う環境によっては、PLA以外の素材が適している場合もあります。それぞれの素材に得意・不得意があるため、目的に合わせて素材を選ぶことが3Dプリント成功のカギです。
そこでここでは、一般的な家庭用・ホビー用3Dプリンター、なかでもで熱溶解積層(FDM/FFF)方式の3Dプリンターで使われる代表的な素材の種類とその特徴、適した用途や注意点について解説してみたいと思います。ユーザー目線でまとめていますので、素材選びに迷ったときのヒントにしていただけましたら幸いです。
熱溶解積層(FDM/FFF)方式向けフィラメント素材
家庭向け3Dプリンターの主流であるFDM/FFF方式では、「フィラメント」と呼ばれるプラスチックの糸状素材を溶かして積層します。この方式で使えるフィラメント素材には様々な種類があり、それぞれ特性や適した用途が異なります。ここではその中から代表的なフィラメントを紹介します。
PLA(ポリ乳酸):手軽で万能な定番素材
PLAはトウモロコシやサトウキビ由来のバイオプラスチックで、もっとも広く使われているフィラメントです。低温(約180~230℃)で溶け、反りや収縮が少ないため初心者でも扱いやすいのが魅力です。実際、筆者もPLAのおかげで「ちゃんと造形できる!」という成功体験を積めました。初めて使う素材で悩んだ際はまずはこれ一択です!
とはいえPLAにも欠点があります。耐熱性が低く、約50℃以上で軟化し始めてしまうため、高温になる用途には向きません。車内や真夏の屋外に置くと造形物がぐにゃっと変形してしまうこともあります。また硬くてやや脆いため、強い衝撃が加わると割れやすい傾向があります。機械的強度を要求される部品や、高温環境で使うパーツには不向きと言えるでしょう。またあまり後加工には適しません(やすりがけや穴あけなど)
用途としては、フィギュアや小物、デザイン重視の試作品など、精細さや見た目を重視する造形物に最適です。筆者も塗装前提の模型や飾り物はほとんどPLAで作っています。失敗しにくく、造形がしやすいので、初心者の方はまずはPLAから始めるのがお約束とも言えます。
SK本舗のPLAフィラメント
https://skhonpo.com/products/filament-matte
PLAにも種類が複数あり、PLAをベースに配合を調整したものがいくつかあり、よく見かけるのは「PLA+(PLAプラス)」です。各社が強度や耐久性を高めたPLAフィラメントをPLA+として販売しており、「PLAの弱点を克服した素材」として注目されています。SK本舗ではPLA +フィラメントとして「GENESIS」を販売していますが、実際に使ってみると、通常のPLAより曲げに対する剛性が増し、ベッドへの密着性も良好でした。強度向上のおかげで割れにくく、プリントの信頼性が高いので、「もう少し丈夫なPLAが欲しい」という方におすすめです。
PLA +フィラメント「GENESIS」
https://skhonpo.com/products/sk-genesis-pla-plus
最近ではPLA HTというPLAの弱点であった耐熱性を強化したフィラメントなども登場し、簡単に印刷できる優秀なフィラメントが増えてきています。
ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン):強靭だが取り扱い要注意
ABS樹脂はレゴブロックなどにも使われる頑丈なプラスチックで、耐衝撃性・耐熱性に優れるのが特長です。約210~250℃程度の高めの温度で造形し、造形物は約100℃までの高温に耐えられるので、耐熱を求めるパーツにも使えます。機械強度も高く、ガシガシ使う工具部品や機械パーツにも適しています。
しかし扱いはPLAより難しくなります。印刷中に収縮しやすく反りが発生しがちなので、造形中に角が浮いてしまったり、最悪割れてしまうようなこともあります。そのため加熱式のベッドやエンクロージャー(囲い)で温度を保ちながら印刷するのがほぼ必須です。PLA感覚でABSを印刷してみたら、見事に四隅が反り上がって失敗…なんていう事例はよく耳にします。
また印刷中の臭い(揮発性有機化合物)が強いため、換気にも気を配る必要があります。閉め切った室内でABSを大量に印刷すると独特の刺激臭で苦しくなるので、ご使用の際は必ず換気や空気清浄を行いましょう。
用途としては、ある程度の強度・耐熱性が必要な実用部品向きに適しています。例えば、3Dプリンタで作る自作工具のパーツや、プリンターそのものの改造パーツなど、熱や負荷のかかる場面で活躍します。実際、屋内で使う機械部品ならABSのタフさは心強いです。ただし、ABSの性能を発揮するには印刷環境を整える中級者以上向けの素材と言えるでしょう。外で主に使うものを印刷する場合は紫外線に強いASAを使うことをお勧めします。
庫内温度を高めに維持することが重要なため、箱型のプリンターでチャンバーヒーターがない場合印刷前にヒートベッドを温めて放置しておくといった方法で庫内温度を高めてから印刷するというのも良い方法です。
SK本舗のABSフィラメント
https://skhonpo.com/products/skabs_filament
PETG(ポリエチレンテレフタレート・グリコール変性):強度と扱いやすさのバランス型
PETGはペットボトル素材のPETにグリコールを加えて3Dプリント用にした素材です。「ABSの強度+PLAの印刷しやすさ」を狙った中間的な特性を持ち、近年ホビー用途でも人気が高まっています。実際、耐衝撃性はPLAより高く割れにくいうえ、耐熱も約80℃程度までありPLAより熱に強いです。屋外の日差し程度ならPLAより安心できます。また吸湿しにくく耐水性が高いことから、湿気の多い場所や水回りで使うパーツにも適しています。
印刷時のポイントは、糸引きが発生しやすい点です。使用する前にはしっかりとフィラメントドライヤーで乾燥しましょう。また、溶けたPETGは粘りがあるため、ノズル移動の際に細い糸が引きやすい傾向があります。筆者も初めて使ったときはモデルの隙間にクモの巣のような細いヒゲがたくさん付いて驚きました。でもご安心を。これはリトラクション(ノズル引き戻し設定)や印刷温度を調整することでかなり軽減できます。筆者は温度を少し下げてリトラクション距離を増やすことで、ほぼヒゲ無しの綺麗な造形ができるようになりました。仕上がりは少し光沢があり、指紋や擦り傷が目立つことがありますが、後処理するなら問題ないレベルです。
用途としては、強度と耐久性が求められる実用品や機械部品、さらには簡易的な食品容器など、幅広く使うことができます。例えばDIYで作るガジェットケースやドローンパーツなど、PLAでは割れそうだけどABSほどの耐熱はいらない…といった場面にはピッタリです。筆者も屋内で使う工具ホルダーはPETGで出力していますが、落としても割れず長持ちしています。日常生活向けの実用パーツには万能選手と言えるかもしれません。
THE K5™ PETG GF
https://skhonpo.com/products/kexcelled3d-the-k5™-petg-gf
ASA(アクリロニトリル・スチレン・アクリレート):屋外に強いABS代替
ASAはABSによく似た化学組成ですが、ABSよりも耐候性(屋外環境への耐久性)が強化されたフィラメントです。UVカットのサングラスみたいなもので、紫外線や雨風にさらされても劣化しにくいのが最大の特徴です。ABSでは直射日光で色あせたり脆くなったりしますが、ASAは長期間屋外に置く用途でも安心感があります。
機械的強度や耐熱性もABSと同等で、約100℃近くまで耐えるため屋外の炎天下でも耐熱的に余裕があります。以前、自転車のアクセサリーパーツをASAで造形してみましたが、真夏の直射日光下に数カ月置いていても割れや変色は見られませんでした。「屋外で使うならASA」という声が多いのも頷けます。
印刷時の難易度はABSと似ています。高温での印刷が必要なうえ、やはり反りや収縮が起きやすいです。エンクロージャーで温度を管理しないと大きな造形は厳しいでしょう。また価格はABSより少し高めですが、「ABSの失敗率と屋外耐久性のリスクを考えたらむしろ安い」とも言えます。
用途としては、上記したように屋外で使う造形物全般に適しています。ガーデニング用フック、ベランダの器具パーツ、車の内装外装の一部など、長期間日光や雨にさらされるものにはASAが最適です。ABSと同様、出力環境のハードルは少し高いですが、その分得られる安心感は大きいでしょう。
SK本舗のASAフィラメント
https://skhonpo.com/products/skasa_filament
TPU(熱可塑性ポリウレタン):ゴムのように曲がる柔軟素材
TPUはゴムのような弾性を持つフィラメントで、曲げたり伸ばしたりできる柔軟な造形物を作れます。正式には「熱可塑性エラストマー」の一種で、シリコンゴム的な使い方が可能です。硬度にもよりますが、例えるなら消しゴムからカータイヤくらいの固さの範囲で様々な製品があります。実際触ってみるとプニプニしていて面白いです。
特筆すべきは衝撃吸収性で、落としても割れないどころか跳ね返るような造形物も作れます。スマホケースやドローンのバンパー、工具のグリップ、自転車のハンドルグリップなど、柔軟性やクッション性が求められるパーツに最適です。以前、TPU製のスマホケースを自作したことがありますが、わざと床に投げつけてみても壊れることがなく、頼もしさがあります。
ただし印刷面ではいくつか注意が必要です。吸湿しやすい素材のためフィラメントドライヤーでしっかりと乾燥。フィラメントが非常に柔らかいため、押出機(エクストルーダー)内で曲がって詰まりやすいです。ダイレクトドライブ式(押出機がノズル近くにあるタイプ)のプリンターを推奨します。ボウデン式(プリントヘッドではなく離れた場所に押出機があるタイプ)では印刷難易度が高くお勧めできません。また印刷のコツとしては印刷速度を落とす(20~30mm/s程度、ただしマシンやTPUの種類による)こと、またフィラメントの経路でひっかかりができないように注意することです。
また、TPUは糸引きやブリッジのたるみも出やすいです。リトラクションを控えめにしつつ、サポート材を活用するなど工夫しましょう。艶消しタイプのものやシルク調のTPUフィラメントもあります。また最近では発泡TPU、いわゆるTPU Airなどもでており用途に合わせて選択肢が増えています。TPUフィラメント自体の柔らかさもありますが内部のインフィル充填率やインフィルパターンを変えることで更に柔らかさを変えていくことができるのも面白い点ですね。
用途としては、その柔らかさを活かしたケース類、衝撃吸収部品、ウェアラブルデバイス部品などに適しています。例えばドローンの着陸脚をTPUで作れば衝撃で割れずに弾みますし、工具の持ち手を覆えば滑り止め兼クッションになります。一方で精密な寸法が必要なギアなどには不向きですし、あまり大きい造形にも向きません。ちょっと特殊なニーズに応える素材として、必要なときに活躍する頼もしいフィラメントです。
TPU85Aフィラメント
https://skhonpo.com/products/ultrafuse_tpu-85a-filament
その他のフィラメント素材:ナイロン・ポリカーボネート・特殊フィラメントなど
上記以外にも、FDMプリンターで使える素材は数多く存在します。ここでは中級者以上向けの主なものを簡単に触れておきます。
• ナイロン(PA): 非常に強靭で耐摩耗性・耐薬品性にも優れた素材です。ギアや機械部品に向きますが、吸湿性が極めて高いため印刷前の乾燥管理が重要です。また印刷温度も240℃以上と高く、しっかりした環境が必要です。
• ポリカーボネート(PC): 耐熱・耐衝撃・透明性を兼ね備えた高性能プラスチックです。120℃近い耐熱があり、自動車や照明カバーなどに利用可能ですが、310℃近い超高温が必要な難素材です。一般的な家庭用プリンターでは使用が難しいのが難点です。
• ポリプロピレン(PP): 軽量で柔軟、耐薬品性も高い素材です。生活用品の試作に使えますが、印刷時の反りが大きく接地面の保持が難しいです。専用のビルドプレートを使うなど工夫が要ります。
• PVA/BVOH: 水に溶けるサポート材用フィラメントです。デュアルノズル機で造形のサポート(支え)部分をこれで印刷し、水に浸けて溶かすことで複雑形状をきれいに造形できます。扱いはやや繊細ですが、とても便利な材料です。
• 複合フィラメント: 樹脂に他素材の微粒子を混ぜ込んだフィラメントです。代表的なものに木質調フィラメント(ウッドフィラメント)やカーボンファイバー入り、金属粉末入りなどがあります。木質フィラメントは木粉が入っており、出力後にヤスリがけすると木彫りのような質感が楽しめます。カーボン・金属系は剛性や質量感が増す一方で、ノズルが早く摩耗するため硬度の高いノズルが必須です。
フィラメントの保管について
保管に関してはどの素材も湿気には注意が必要です。フィラメントが水分を含むと、印刷中に「プチプチ」という音とともにノズルで弾けて気泡や糸状のノイズが発生しやすくなります。吸湿しやすい素材ほど要注意で、PETGやナイロン、TPUは特に湿気を嫌います。使い終わったら袋に乾燥剤とともに密閉保存し、ドライボックスやフィラメント乾燥機を活用しましょう。フィラメントを良い状態で保つことも、安定した造形の秘訣です。
素材の特徴を知って“ベストな選択”を
3Dプリンター用素材には本当に様々な種類があり、それぞれ「得意なこと」「苦手なこと」があります。だからこそ、どの素材にも活躍の場があるとも言えます。今回ご紹介したように、例えば「見た目重視ならPLA」、「実用品ならPETGやABS」、「屋外で使うものはASA」、「柔軟性が欲しいならTPU」といった形で、用途に合わせてベストな素材を選ぶのが理想です。素材選びも含めて3Dプリントの醍醐味と思っていただけたなら、その可能性はグッと広がるはずです。
とはいえ最初は迷うことも多いでしょう。ただ、経験を積むうちに「場面に応じた自分のお気に入り素材」がきっと見つかります。実際、筆者もいろいろ試していくなかで「失敗しにくいPLA」「丈夫なPETG」「加工がしやすいABS」といった具合に、シーン別のお気に入りができました。ぜひ皆さんも色々な素材を試してみて、「これだ」という一本を見つけてください。
SK本舗フィラメント(全種)販売ページ
https://skhonpo.com/collections/filament