あと¥5,500の購入で送料無料になります。

「銃器版のiTunesになれて嬉しい」コーディー・ウィルソンが開発した3Dプリント銃〈リベレーター〉をめぐる論争

RSS
「銃器版のiTunesになれて嬉しい」コーディー・ウィルソンが開発した3Dプリント銃〈リベレーター〉をめぐる論争

3Dプリンターと銃

 

3Dプリンターは正確なモデリング、素材選びを行えば、あらゆる物質を出力、制作することができる夢の技術だ。しかし、光あれば影あり。あらゆる物質を出力することができるということは、それゆえの「危険」性も当然ながら存在する。たとえば、それは銃器の3Dプリント、すなわち3Dプリント銃である。

 

 

3Dプリント銃〈リベレーター〉(画像引用:wikipedia)

 

 

日本では周知のように、銃器はそれ自体の所持が職務において所持する場合などを除き法によって原則として禁止されており、日常の中で銃を入手するということは猟銃、競技用の銃などの一部の銃以外に関して極めて困難となっている。あるいは銃の所持が法的に認められている米国などにおいても、全ての拳銃は国家や州に登録されており、購入や所持に関しては適正な手続きを経ることが求められている。そうした規制が存在するのは言わずもがな、銃器を用いることにはそれだけの危険があるからに他ならない。しかし、3Dプリンターがあれば、そうした登録を経ずとも、あるいは誰かから適正な手続きを経て購入せずとも、誰もが銃を自ら製作できてしまうのだ。

 

  


 
 
こうなると当然のごとく問題が生じる。実際、3Dプリント銃をめぐってはすでにさまざまな事件、議論が起こっており、いまなお論争は続いている。今回はその論争の歴史を少しだけ紐解いてみたい。

 

 

コーディー・ウィルソンと〈リベレーター〉

 

発端は2013年、非営利団体であるDefence Distributedが世界初となる3Dプリント銃のデータを公開したことに始まる。


当時テキサス大学のロースクールの学生だったコーディー・ウィルソンという人物によって開発されたリベレーター(日本語で解放者の意)と呼ばれるこの銃は、撃針を除く全ての部品を3Dプリンタで出力することが可能なものでありながら、人を殺害するに足るだけの殺傷能力を有するものだった。データ公開とともに瞬く間にリベレーターの3Dデータは10万ダウンロードを突破、各種メディアにも取り上げられるなど、米国社会に大きな波紋を呼ぶことになった。

 

  
   

 コーディー・ウィルソンと〈リベレーター〉

 

 

ウィルソンは自身の存在を「影のアナキスト」と自称しており、〈リベレーター〉のデータが世界中に広まることこそが本質的な「自由」につながると語っている。米国の一部の人々にとって銃とは「自由の象徴」であると聞くが、銃器の民主化を説くウィルソンのこうした思想は、米国に根付いた自由と民主主義という理念の一つの影絵と言いうるものかもしれない。

 
当然、3Dプリント銃のデータが急速に拡散されているという事態はすぐさま政府の耳にも入ることとなり、オバマ政権下にあった米国政府は事態を問題視、それらのデータをインターネットから削除するようにDefence Distributedに命令した。しかし、同団体およびウィルソンはそれに対して政府を提訴、自分たちには銃のデータを公開する権利があると逆に政府を訴えることとなる。その後、法廷闘争が行われ、2015年に一度はDefence Distributedが敗訴するものの、ウィルソンらが諦めることはなく、その後も法廷闘争は継続され、結果として2018年、もつれ込んだ交渉の末にトランプ政権下の米政府とDefence Distributedは和解し、公開差止の命令は撤回された。つまり、3Dプリント銃のデータを自由公開することが公に認められることとなったのだ。


米国では長らく銃規制派と銃推進派が対立してきたが、どうやら、今回のケースは必ずしもその枠内に収まるものでもないらしい。というのも、問題が発生した当時、こうした3Dプリント銃のデータ公開に対して批判的だった団体の一つには銃推進派のロビイスト集団として知られる全米ライフル協会(NRA)も入っていたのだ。誰もが簡単に自宅で銃をプリントできてしまったら、銃製造会社にとっては大きな痛手である。実際、銃推進派であるトランプ大統領もまたツイッターにて「公共に販売される3Dのプラスチック製銃を見た。NRAとも話をしたが、全く意味を持たないものだ」と発言しており、3Dプリント銃には懐疑的な姿勢を示している。


こうして3Dプリント銃のデータ公開が開始されることになったのだが、実際のところ、差止命令撤回以前から、ダークウェブなどでは3Dプリント銃の3Dデータが流通していたという。ウィルソンからすれば「何を今更」という感じだったのかもしれないが、公に認められたことにより、今度は米国のニューヨーク州を含む9つの州が3Dプリント銃の3Dデータの公開を阻止するための訴訟を起こすこととなった。この提訴は銃の3Dデータの公開を認めている米連邦政府に対して各州から行われたものだったが、ウィルソンはこれに対し、差止はデータの無償公開にのみ適用されるもので、販売には適用されないと主張、訴えを無視する形で銃の3Dデータの販売を断行している。ウィルソンはまた「銃器版のitunesになれて嬉しい」といった不敵な発言もしており、結局、リベレーターのデータは現在に至るまで流通を続け、その議論には決着がついていない。
 

 

 

 

Defence Distributedのウェブサイト

 

 

 

 

3Dプリント銃によって54歳の女性が殺害

 

このまま放置しておけば必ずや事件に至ると、多くの人々が不安視していたさなか、ついにその銃声は鳴り響くこととなった。事件が起こったのは2020年1月、米国はロード・アイランド州に住む54歳の女性が胸に複数の銃弾を受けて死亡したのである。この女性の殺害容疑で逮捕されたのは、23歳と18歳の男女であり、なんでも殺害された女性は18歳の女性の元恋人の母親だったそうだ。この痛ましい事件において使用されたのが3Dプリンターで出力された3Dプリント銃だった。

 

 

 

 


もちろん、銃を3Dプリンターで出力しても弾丸は別途購入する必要がある。そのため、銃の3Dデータの公開を直ちに危険視する必要はないという意見もあるのだが、たとえそうであっても殺傷能力のある武器のデータが流通し続けているという状況は決して安全とは言えない。


実際、米国の極右武装勢力「ブーガルー運動」の信奉者たちが用いていた自動小銃AR-15の改造部品が3Dプリンター製であることが先だって明らかになっている。彼らはPortablewallhanger.comというある個人通販サイトにおいてそれらの部品を購入していたようで、これにより市販の銃は極めて殺傷能力の高い殺戮兵器へと変貌していた。もちろん実際に改造をすればただちに違法となるのであるが、問題はそのデータを頒布することが現状では法に問われないという点である。事実、銃推進派の団体であるDeterrence Dispensedは違法改造部品であるオートシアーの3Dデータを今も公開しているが、そのことを取り締まることは現状においてはできない。

 

 

ブーガルー運動の支持者たち(画像引用:Wikipedia)

 


こうした事態を受け、2020年1月末にはあらためてニューヨーク州、カリフォルニア州など20州の署名とともに規制緩和に反対する訴えが提出されたが、果たして、その訴えが今後受け入れられるのかどうかは分からない。銃乱射による無差別大量殺人事件が相次いでいる米国において、銃規制の行方は非常に関心の高いテーマであるものの、米国においては危険性よりも「自由」を重視する人々も多く、世論は真っ二つに割れている。2021年1月には銃規制に意欲的なバイデン民主党政権が誕生する見込みだが、共和党員が過半数以上を占める米国議会において規制強化を推し進めることは非常に困難であるとも予測される。3Dプリント銃の未来は今なお不透明なままだ。


なお、ウィルソンはその後、3Dプリント銃とは全く別のところで、未成年女子との淫行罪によって逮捕されており、それによりDefence Distributedとは袂を分かっている。Defence Distributedは現在、リベレーターとは異なる3Dプリント自動小銃を展開しており、ウィルソンが低コストな銃製造機としてリリースしていた卓上CNC「GHOST GUNNER」もまた、現在ではヴァージョン3に至っている。

 

 

米国以外における3Dプリント銃の状況


ここまで米国における3Dプリント銃をめぐる議論を概観してきたが、3Dプリント銃の問題は米国以外へも波及している。2019年6月には英国にて、3Dプリンターで拳銃を作製した咎により、ジンバブエ出身の学生に有罪判決が下れている。有罪となったテンダイ・ムスウェレ被告は、映画の撮影小道具として出力したと供述していたようだが、なぜ殺傷能力のある銃を小道具として用いたのかは明らかになっていない。なお、英国においては銃所持は免許制のもと認められている。

  

 

 

 

また、先月にはシンガポールにて3Dプリント銃の3Dモデルを所有することが禁止される法案が提出された。これは銃の製造や所有のみならずデータの所有も禁止するという点で画期的な法案である。3Dプリンターの導入に熱心なシンガポールとしては未然にそれによるリスクを抑止しようということだろうか。また、シンガポールでは銃所持が免許制で認められているものの、その発砲については対象が物であっても、死刑が課せられる可能性があるくらい規制が非常に厳しい。自由と責任、そのバランス感覚に関しては、各国様々であるようだ。

 

日本においては、狩猟、競技など特定目的以外における銃の所持は認められていないため、3Dプリント銃もまた所持すればそれだけで違法である。これまでに3Dプリント銃による逮捕者は2名。2014年には自宅で3Dプリント銃を製作所持していた大学教員が、また2018年には愛知県名古屋市在住の19歳の少年が、それぞれ3Dプリンタで製造された銃を所持していたとして逮捕されている。

 

   

 

色々なものを自分自身で作ってみようというDIY精神は素晴らしい。しかし、DIY武器となると、そこにはやはり慎重さが必要とされる。3Dプリンターはあらゆるものを個人がつくりだすことを可能にするテクノロジーではあるが、そうであればこそユーザーそれぞれが倫理観を持って取り組むことが欠かせないのだ。おそらく現在はそうしたテクノロジーへのリテラシーが成長する過渡期にあると言え、今後、法整備を含めて、様々な議論がなされていくことになるとは思うが、ここで忘れて欲しくないのはテクノロジーそのものに罪はないということだ。結局はどんな技術も使用する我々次第、あらゆるものが毒ともなれば薬ともなるのである。
 

3Dプリンターが命を奪うためのツールではなく、命を活かすためのツールとして幅広く使用されていくことを願ってやまないのと同時に、日本ではたとえお遊び感覚でも銃器を3Dプリンターで出力することは法律違反であるため、くれぐれも注意してほしい。

 

 

 

前の記事 次の記事

x

日本語