技術とはいつだって、天才たちによる熱きライバル関係の中で進歩してきた。

送電技術をめぐって争ったエジソンとニコラ・テスラ、量子力学をめぐって論争を繰り広げたアインシュタインとニールス・ボーア、あるいはIT革命の立役者となった永遠のライバル、ビル・ゲイツとスティーブ・ジョブズ。

彼らが世界にもたらした発明や進歩は、いずれも一人きりの天才が独力で創り出したものではない。それは、同じ時代を併走するライバルとの切磋琢磨の中で、その対立があったからこそ生み出されてきたものなのだ。

猫と月とサイコロ

ドキュメンタリー スティーブ・ジョブズ VS ビル・ゲイツ ~ライバルたちの闘い~

もちろん、3Dプリンターの世界にも、この技術の進歩に人生を賭した天才たちの熱き戦いが存在している。そこで今回は、3Dプリンターをめぐって今まさに繰り広げられている、ある二人の男たちの物語を紹介したいと思う。

その男たちとはジョセフ・デシモンとチャド・マーキン。互いに互いを乗り越えようと奮闘を続けるライバル同士であり、また一方で、休暇には旅行をともにする、唯一無二の友人同士でもある。

ジョセフ・デシモン(出典:Wikipedia)
チャド・マーキン(出典:Wikipedia)

デシモンの成功とマーキンの挑戦

アメリカの化学者であるジョセフ・デシモンとチャド・マーキンは数十年来の友人だ。ともに3Dプリンターという技術に夢見るもの同士、分かり合えることが多かったのだろう。一緒にノースカロライナの海岸で休暇旅行をすることもあるほど仲の良かった二人の友情関係に、今、小さくない亀裂が入ろうとしていることには理由がある。なんでもここ数年、マーキンは友人であるデシモンを失業させることになるであろう、ある研究に力を尽くしており、そしてついにこの10月、その研究が完成したというのである。

マーキンはイリノイ州のノースウェスタン大学の研究者らとともに、ある技術の開発を行なっていた。その技術とは他でもない、これまでで最大の物質を高速で造形する最先端の3Dプリント技術だ。2019年10月、マーキンはその開発についに成功。これは自動車や飛行機の部品製造に革命をもたらすことになる大きな転換点だと、業界内でも大きな話題を呼んでいる。

しかし、なぜその技術の開発が友人であるデシモンを失業させることになるのだろうか。実はこのデシモン、有名な3D印刷会社Carbon3DのCEOであり、また同時に、デシモンはこれまでの光造形3Dプリント業界における最先端技術であったContinuous Liquid Interface Productionの開発者でもあったのだ。

このContinuous Liquid Interface Production、通称〔CLIP〕とは、従来の光造形(SLA)技術のような3Dモデル断面を層ごとに硬化させる造形手法とはまったく異なる技術であり、それまでに現存していた光造形プリンタの25倍~100倍の高速化と高精度化を実現するものだった。デシモンらはこれを2015年に開発、その成果をScience誌に報告し、一躍、時代の寵児となっていたのである。

発表当初、CLIPはまさに革命的だった。コンタクトレンズのようなウィンドウを介することで、光と酸素流量を制御、さらに従来のようにプラットフォームの移動~硬化のような静止動作を必要としないため、連続したシーケンスによるUV硬化がレジン槽内で実行され、これにより、積層跡を持たない超高精細なミクロンレベルの光造形を超高速で行うことを可能とした。

デシモンはこの画期的技術であるCLIPによって、6億8000万ドル以上の資金を調達、アディダス、フォード、リデルなどの名だたるグローバル企業と、自動車部品、靴、歯科インプラント、フットボール用ヘルメットなど多岐にわたる製造契約を結び、3Dプリント業界で比類なき大成功をおさめていたのである。ようするに、マーキンによって2019年に開発されたCLIPを超える新しい3Dプリント技術は、このデシモンの成功したビジネスに「待った」をかけ、水を差すものであったというわけだ。

CLIPの弱点への着目が進歩を生んだ

マーキンが目をつけたのはCLIPの弱点だった。CLIPにおいては、その硬化プロセスが熱を放出するため、それによって印刷された部品が反ったり割れたりする可能性があったのだ。そのため、マーキンのチームは液体冷媒をレジンの下に循環させ、その後、冷却ユニットに通すことで、成長する印刷物から直接熱を引き出すことができる新しい3Dプリント技術High Area Rapid Printing〔HARP〕を作り出した。これにより、大人ひとり分の大きさを持つ3Dオブジェクトをわずか数時間で印刷することを可能としたのである。

マーキンによれば、この新しい技術では、「タイリング」と呼ばれる四台のプロジェクターからの光を並べて配置することで、断面が1平方メートル近く、高さが4メートル以上の物体をすでに作成できるという。さらに将来的にプロジェクターを追加することで、より大きな物体をプリントできるようになる、とも息巻いている。

「タイリングは理論的には無限です」

そうマーキンは語る。すでにこの印刷技術を商業化するためにAzul3Dという会社もマーキンは立ち上げており、18カ月以内にプリンタの販売を開始する予定だ。すなわち、デシモンのビジネスに真っ向勝負を挑もうというわけだ。

今のところ、デシモンは「この分野の革新を見ることが好きですし、競争については心配してませんよ」とマーキンの成果については高を括っているようだが、多くの大学研究者たちは今回のマーキンの開発を「大きな進歩」と認めており、これはデシモンの空威張りと言わざるをえない。内心では相当に悔しがっているだろうと推測する。

果たしてデシモンとマーキンの長年の友情は壊れてしまったのだろうか。それは筆者には分からない。しかし、この最大のライバル同士である二人の白熱した戦いが、3Dプリンターの世界を次なるフェイズへと導いていることは間違いないだろう。それに、この物語はきっと序章に過ぎない。まだ3Dプリンターをめぐる二人の物語は始まったばかりなのだ。

デシモンとマーキン、この二人の不安定な関係が3Dプリント技術のさらなる発展の原動力となってゆくこと、これからも引き続き私たちに新しい物語を提示してくれること、そしていつの日か、その物語がエジソンとニコラ・ステラの確執のように後世の人々に畏敬の念をもって振り返られる物語になることを、願ってやまない。

(動画)

(参照記事)
https://www.sciencemag.org/