ボスニアの国民的バンドに新メンバー加入

先週、ある動画が大きな話題となった。その動画はボスニア発でどうやらボスニアで人気のロックバンドに新メンバーが加入することを報告するために作られた動画のようである。

バンド名は「Dubioza Kolektiv」。Youtubeでいくつかサウンドを聞くと、ハードロックからファンク、スカ、レゲエ、ラップ、エレクトロニックと幅広いジャンルを取り入れたクロスオーバースタイルのバンドであり、楽曲の視聴回数も数千万ビューと世界的に支持を集めていることが分かる。

 

 

さて、このDubioza Kolektivに今回、新メンバーが加入したのだが、そのメンバーが話題となっている。名前は「ロビー・メガバイト」。担当楽器は特にない。強いて言えば主にダンスだろうか。と言っても音楽に合わせてなんとなく揺れている程度である。

楽器を弾かない新メンバーとは随分と風変わりなメンバーであるが、それ以上にロビーには他のミュージシャンにはないある特殊性が備わっている。他でもない、このロビー・メガバイト、人間ではなくロボットなのだ。

 

 

「見ての通り、ロボットだ。我々のロボットは普通のものとは違う。食べたり、飲んだり、叫んだり、音楽が好きなんだ」

そう語るのはバンドメンバーでベース担当のVedran Mujagicだ。映像を見ると、確かにロビーは音楽を楽しんでいるように見える。ダンスフロアーでは観客とともに音に乗り、ステージ上ではマイクに向かって歌っているようにも見える。

この動画はリリースされるや瞬く間に話題となり、ニューヨークポストをはじめ、世界のメディアで紹介された。2月には日本語圏でもニュース記事が翻訳され話題となった。すでにロビーは昨年にコロナ禍のパンデミック下におけるオンラインのライブショー「Quarantine Show」に参加し、新メンバーとしてのデビューも果たしているそうだ。

 

 

当然、気になるのは、このロビーを製作したのは誰か、ということである。記事ではロビーを製作したのはボスニアのサラエボ大学の学生であることが明かされている。

その学生の一人、Almir Besicによれば、ロビーの製作には2年以上の月日がかかったそうだ。まずはゴルフクラブのシャフトやベビー・トロリー・ホイールなどのリサイクル素材を使用して、ロビーが動くプラットフォームを作り、そして、その骨格を3Dプリンターで出力した身体で覆っていったそうだ。

学生たちは3Dプリンターに触れたのは今回が初めてだったらしい。出力においてはトライ&エラーを繰り返し、その部分だけで半年かかった。

 

 

「それは大変な努力だったよ。ロビーがきちんと動くかを確かめるために本当に多くの時間を費やしたんだ。幸福な時間だったよ」

Almir Besicはそう嬉しそうに語っている。

 

 

オープンソース化するロボット工学

ところで、3Dプリンターによるロボット製作の試みはこれが初めてのことではない。これまでにも様々なロボットの製作に3Dプリンターは関わってきている。

昨年には、ニューヨーク大学タンドン工学部ドイツのマックスプランク知能システム研究所の共同研究チームが「Solo8」と名付けられた3Dプリント製の4足歩行ロボットを設計、オープンソースとしてその情報を公開している。

実際のSolo8の動画がこちらだ。

 

 

驚いたのは1分3秒あたりからのシーン。「あれれ、ひっくりかえちゃった」と背中から転倒したSolo8のロボットならではの不恰好さに嘆息をついたのも束の間、4足が上下を反転させ、躍動的に跳ね起きる様子を目の当たりにすることになる。

3Dプリントされたボディと4本の足から構造される「Solo 8」の大きさは、胴体の長さ42cm×幅33cm、重さ2.2kg。有線またはWiFiで制御することが可能だそうだ。必要な部品点数が非常に少ないことから、高度な知識がなくてもモジュールを組み立てることができる。

あるいは、もうちょっと身近なところでは、昨年末、クラウドファンディングのサイトに3Dプリント製のボディパーツを持つ、プログラミング不要のロボットキット「Bakiwi」が登場し、あっという間に目標額を達成し話題となった。

Bakiwiは電子部品やモーター、ボディパーツなどをセットにしたロボットキットであり、組み立てとロボット操作を通して、はんだ付け、エレクトロニクス、メカニクスについて学ぶことができるという、教育や練習に適したキットだ。

 

 

価格は70ユーロ、Solo8だとちょっとハードルが、という方は、まずBakiwiあたりから試してみてもいいかもしれない。ここに紹介したのはほんの一例だが、ロボット製造と3Dプリンティングはもはや切っても切り離せない関係になっているのだ。

 

グレートリセットにただ飲み込まれないために

2021年、世界では「グレートリセット」なんて言葉がにわかに語られ出している。これは今回のパンデミックを受け、経済学者クラウス・シュワブが提唱している言葉で、今、世界が抱えている諸問題を解決するには、低成長でも持続できるような社会変革が必要であり、それはテクノロジーの進歩によって可能になるという考えを示したものだ。

 

 

特にシュワブは、人工知能による自動化が急速に進むだろうと指摘しており、その際に鍵となるのは、AIとそれが搭載されたロボットである。これにより人々から労働が奪われ、失業者は増大するとシュワブは言い、その際に問題を回避する上でも、新たな社会保障の充実が急務だと説いている。

こうした労働の自動化による社会変革に対しては、他の見解もある。たとえば哲学者の斎藤幸平は、著書『人新世の資本論』において、テクノロジーによる労働の自動化は人々の労働時間を延長させこそすれ、短縮することはないと指摘している。あるいは自然環境の改善のための新しいテクノロジーの提案は、異なる資源の消費、今までとは違う自然破壊をもたらすだけで、本質的な環境改善には繋がらない、とも。

 

 

このように今後の世界については諸説が紛糾しており、一体何が正しいのか分からなくなってしまうが、いずれにしても、ロボットが今後、様々な場面においてますますプレゼンスを高めていくことは間違いないだろう。そして、3Dプリンターはそのロボットの製造において、もはや欠かせないテクノロジーとなっている。

願わくば、3Dプリンターを始めとするテクノロジーが人々の幸福な暮らしのために用いられてほしいものだ。そのためにも、テクノロジーを拒絶するのではなく、逆にそれを人々がきちんと使いこなしていくこと、そのための技術と知識を習得しておくことが肝要なのではないだろうか。

個人的には、工場であくせくと働くロボットよりも、冒頭で紹介したロビー・メガバイトのような歌って踊るロボットの方にこそ、テクノロジーが本来持っている豊かな可能性を感じている。

(文/SK太郎)