※この記事はカルチャーWEBマガジンHAGAZINE(https://hagamag.com/)に掲載された弊社への取材記事を転載したものです。第二弾の記事はこちらhttps://skhonpo.com/blog/tie-up/shochizawa-2

アメリカ発のMAKERSムーブメントから一気に注目されるようになった3Dプリンター業界は、いまや欧米ではなくアジア圏のメーカーが牽引しているのかもしれない。3Dプリンターに精通するSK本舗代表取締役・遅沢翔に3Dプリンティングの現在を問う本シリーズ、第3回は遅沢自身も交流をもつアジア圏の3Dプリンターについて話を訊いた。

この数年で、3Dプリンティング(3Dプリンター)は徐々に一般的なものとなりつつある。プリンターの価格は徐々に下がっており、設備として取り入れる教育機関も少なくない。この流れは、わたしたちの「ものづくり」をいかに変えうるのだろうか? 本シリーズでは、3Dプリンターの販売を手掛ける新進気鋭のスタートアップ・SK本舗の代表取締役、遅沢翔に3Dプリンティングの現在を尋ねていく。

ひとくちに「3Dプリンター」といっても、その種類はさまざま。数千万円もの価格を誇る大規模な工業用プリンターもあればわずか数万円で買える簡易的なものもあり、プリンターをつくっているメーカーも欧米の大企業からアジア発のスタートアップまで日々新たなプレイヤーが業界に参入している状態だ。

3Dプリンターが盛り上がってきているのはわかったが、どこでどんなプリンターがつくられ、どんなメーカーがいいのかわかりにくいのも事実。シリーズ3回目の今回は、多くのプリンターを買って試行錯誤を繰り返してきた遅沢に、3Dプリンターの現在について尋ねる。さまざまなメーカーが乱立する現在、3Dプリンターの“中心”は欧米からアジアに移っているのだろうか?

多様化する3Dプリンター

HZ 遅沢さんのSK本舗は最初レジンの輸入から始められて、現在は3Dプリンターの販売も行なわれていますよね。

遅沢 そうですね。最初はレジンだけ扱っていたんですが、それだけだと物足りなくなってしまって(笑)。プリンターも輸入するようになって、いまはいくつかの海外メーカーの製品を販売しています。なかでも一番有名なのは、「Phrozen Shuffle」というプリンターですね。去年の10月から弊社で取り扱っています。〈Phrozen〉という台湾のメーカーの製品なんですが、精度が高くていいプリンターだなと思っていたので交渉をもちかけて。現在は〈Phrozen〉のプリンターだけではなくレジンも取り扱っています。

HZ いまやオリジナルレジンも開発されているわけで、どんどん事業が広がっている印象を受けます。

遅沢 繰り返すようではありますが、僕は3Dプリンターという技術に夢を見ているんです。だから、ただの小売事業で終わりたくないなとは最初から思っていました。それにレジンの販売を始めてからお客さんとコミュニケーションをとることが増えていったんですが、こういうレジンが欲しいとご意見をいただくことも多くて。ならばわれわれとしてはその声に合うものを提供したいし、既存のものでそこの水準に達するものがないのであれば、オリジナル製品を作ってしまおう、と。

HZ ところでレジン輸入のきっかけとなったメーカー〈Wanhao〉は中国の会社ですよね。台湾、中国の方では3Dプリンティングが盛んなのでしょうか。

遅沢 アジアは結構盛り上がっていると思います。一番すごいのは中国でしょうね。“戦国時代”のようにいろいろなメーカーが乱立して、さまざまな商品を発表しています。

HZ ドローンやデジタルガジェットの世界や家電の領域では中国メーカーがかなり活躍していますが、3Dプリンターもそうなんですね。

遅沢 これは中国ならではの状況かもしれませんが、優れたプリンターがひとつできると多くのメーカーがそれを真似しようとするんですよね。そのうえで差別化も図るので、結果的に高性能かつ多様なプリンターが数多く生まれることになる。もちろんMAKERSカルチャーの生まれたアメリカにも有名なメーカーはあるんですが、1台50〜100万円くらいする高価なモデルが多いんです。

HZ そのくらいの価格だとやはり企業向けになってしまいますよね。

遅沢 当たり前ですが家庭用なら安いモデルのほうが需要はありますから。ただ、安いモデルには安い理由があるわけで、大手企業が安いプリンターを買うことには反対しています。企業が使うなら、やはり最低でも数十万円するものを買ったほうがいいんじゃないかなと思いますね。
当たり前ですが家庭用なら安いモデルのほうが需要はありますから。ただ、安いモデルには安い理由があるわけで、大手企業が安いプリンターを買うことには反対しています。企業が使うなら、やはり最低でも数十万円するものを買ったほうがいいんじゃないかなと思いますね。

中国メーカーの光と影

HZ 安かろう悪かろうのプリンターも少なくないということですね。安いプリンターだとトラブルも結構起きるものなんですか?

遅沢 トラブルは多いですね。SK本舗をフォローしてくださっている方が中国のよくわからないプリンターを買ったら、途中でプリントできなくなったうえにメーカーとも連絡がとれなくなってしまった、なんてこともありました。ほとんどのメーカーは日本に正規代理店を持っていませんから。メンテナンスなどの面でもどうしてもサービスが不足してしまいがちなんです。

HZ 一方で、優れた中国メーカーもたくさんあるわけですよね。中国のメーカーは以前から盛り上がっていたんでしょうか。

遅沢 もともとほかの事業を手掛けていたというより新たに立ち上がったところが多いので、若い会社が多いと思いますね。〈Wanhao〉のほかには、〈ANYCUBIC〉もかなりいま勢いがありますね。〈ANYCUBIC〉は中国の深センを拠点としているメーカーで、2015年に設立されています。このメーカーは代理店を使っていなくて、Amazonのようなウェブサイトで直販を行なっています。

HZ 深センは3Dプリンターに限らずこの10年でかなりたくさんのメーカーが集まる都市になりましたね。

遅沢 深センの勢いはすごいものがありますね。アメリカはものづくりが好きだしたくさん3Dプリンターが売れていますが、メーカーとしてはアジアのほうがどんどん成長しているように感じます。アメリカやヨーロッパの個人クリエイターの間で使われているプリンターのなかには、中国から輸出されているものも少なくないでしょうね。

深センの勢いはすごいものがありますね。アメリカはものづくりが好きだしたくさん3Dプリンターが売れていますが、メーカーとしてはアジアのほうがどんどん成長しているように感じます。アメリカやヨーロッパの個人クリエイターの間で使われているプリンターのなかには、中国から輸出されているものも少なくないでしょうね。

プリンターからコミュニティが生まれる

HZ ちなみに、日本のメーカーはどういった状況なんでしょうか?

遅沢 安いプリンターについていえば、海外メーカーにまったく太刀打ちできない状況だと思います。日本はどうしても人件費が高くなってしまうので、海外と同じクオリティの製品を同じ価格で売るのは難しいんです。ただ、高価なプリンターとなると状況は少し変わります。むしろ有名なメーカーは1,000万円規模のプリンターをつくっていて、そういった業務用のモデルに注力していますね。だから家庭用の安いモデルをつくっているメーカーがそもそも少ないんです。中国のメーカーは大量につくるからコストも下がりますしね。プリンター以外には国産のレジンをつくる動きもありますが、こちらもやはり値段が上がってしまうんじゃないかなと。

HZ 1,000万というのはすごいですね。

遅沢 数千万円するようなモデルもありますよ。高価なモデルは人間の大きさくらいのオブジェクトを出力できたり、精度が非常に高かったり。印刷しながら色を塗っていくフルカラープリンターや金属3Dプリンターはかなり高価なものが多いんです。

HZ 多くのメーカーやモデルが群雄割拠しているわけですね。こうした状況のなかで、SK本舗はあくまでも低価格帯のプリンターに注目している、と。

遅沢 そうですね。世の中を見ていると何十種類ものメーカーが似たようなプリンターを出しているので、どれがいいんだろうと悩んでしまう人も多いんじゃないかと思います。ただ、弊社としてはいま扱っている〈Wanhao〉と〈Phrozen〉を推していきたい。これらのメーカーなら10〜15万円ほどで手に入るので個人でも手が出しやすいですから。また、この価格帯の中では機能性は圧倒的に優秀だと感じています。

僕としては企業ではなく個人が気軽に3Dプリンターを使うような環境が生まれなければ意味がないと思っているんです。弊社は去年から今年にかけてかなりの台数のプリンターを販売しているんですが、面白いのはユーザー同士の情報交換が活発になってきていることですね。プリンターを買ってそこで終わりではなくて、ユーザーが集まっていくことで次第にコミュニティが形づくられていく。もちろんそこには3Dプリンターに関する最新の情報が集まっていきますし、ユーザーの交流によってコミュニティから新たなクリエイションが生まれてくるかもしれない。こうしたコミュニティが活性化していくことで、3Dプリンターを使った「ものつくり」のシーンが形成されていく。今、僕はとてもワクワクしているんです。

それに、現状では業務用でなければ不可能な造形も、そう時間を経ることなく、個人向けプリンターにおいても可能になるはずです。まずは質の高い家庭用フルカラー3Dプリンターの登場が待望されますね。機能が向上すればするほど作れるものが増えますし、それに応じて参入者も増えます。そうこうしているうちに、あらゆるものを「出力」できる、あらゆるものを個人が「出力」する世界が到来する。きっと気付いた時にはそうなってるんじゃないでしょうか。その時、受動的なユーザーになってしまわないためにも、僕としてはいまのうちにこのムーブメントに参加しておくことをオススメしてます。

遅沢が「戦国時代」と評するように、Amazonで「3Dプリンター」と検索するだけでも無数のメーカーから数え切れないほどの商品が発表されている。わずか1万円台で買えるものから100万円近いものまでよりどりみどりの状況といえど、これだけ選択肢が多いとどんなプリンターを買えばいいのか初心者にはわかりづらいのも事実だろう。

こうした状況のなかで遅沢率いるSK本舗は安価かつ品質の安定したプリンターに注力することで、3Dプリンターの奥深き世界へ入っていくための道案内人とでもいうべき機能を果たしている。彼らに誘われて3Dプリンターの世界に踏み入れれば、そこには試行錯誤を繰り返す「ものつくり」のコミュニティが待っている。たくさんのプリンターが流通すれば新たなものづくりが自動的に広まるわけではない。ユーザーのコミュニケーションと、コミュニケーションが生じる場がなければそれは新たな文化となりえないのだ。だからこそ、遅沢は継続的にユーザーたちとコミュニケーションをとりながらコミュニティをつくっていこうとしているのだろう。

シリーズ最終回となる次回は、SK本舗が販売している3Dプリンターがどんなユーザーに使われているのか、そしてそこにはどんな可能性があるのかを尋ねていく。ものづくりの民主化を机上の空論で終わらせぬために、いま取り組まれるべき課題とはなにか。

(文・もてスリム/写真・東山純一)

遅沢翔インタビュー記事一覧

第一弾 https://skhonpo.com/blog/tie-up/shochizawa
第二弾 https://skhonpo.com/blog/tie-up/shochizawa-2
第三弾 https://skhonpo.com/blog/tie-up/shochizawa-3
第四弾(最終)https://skhonpo.com/blog/tie-up/shochizawa-4