3Dプリンターは徐々に身近な存在となりつつあるが、まだ多くの人にとっては未知の存在であることも事実。ならば、体験する場さえあればこの未知なるテクノロジーはもっと身近なものになるかもしれない。本シリーズではグラフィックデザイナー/アーティストのGraphersRockこと岩屋民穂が3Dプリンティングの世界に触れていく様子をレポートしていく。

 

SK本舗 × GraphersRock(岩屋民穂)|3Dプリンターはアーティストの「制作」をいかに更新するか|3Dプリントのプロトタイピング①

 

SK本舗 × GraphersRock(岩屋民穂)× 熊谷クルル|テクノロジーの“民主化”が「ものつくり」を変える|3Dプリンティングのプロトタイピング②

 

 

3Dプリンターという新たな制作の手段を手に入れることは、ただ単に新たなツールを手に入れることではない。それは未知のツールを通じて新たな考え方や世界の見方を手に入れていくことでもあるのかもしれない。小規模3Dプリンタースタートアップ・SK本舗を率いる遅沢翔は、3Dプリンティングのプロトタイピングの場を設けるべく、スタジオへグラフィックデザイナー/アーティストのGraphersRockこと岩屋民穂を招聘した。

シリーズ第3回となる今回は、色、形、解像度など、岩屋のグラフィックを3D化していくなかで考えていくべき点をキーワードに、さまざまな領域へと広がりながら進化していく3Dプリンターの現在について遅沢とモデラー/3Dアーティストの熊谷クルルとともに語っていく。

 

 

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ソフトとサービスの改善

 

岩屋 今日お話を伺ってみて、3Dプリンターのハードはかなり成熟してそうなので、あとはサービスとソフトの部分ですよね。

遅沢 ハードウェアの面では初心者でも簡単にプリンターを手に入れて出力できるような環境はすでにある程度整っていますからね。インターネット上で公開されている3Dデータを使えば簡単に出力はできるわけで、データをつくりやすい環境を整えることが最も大事なのかもしれません。やはりモデリングは誰でもできるわけではないので、そこが鬼門だなと。

岩屋 そうですよね。モデリングできる人はある程度限られてしまいますからね。

遅沢 個人的には、いつかGoogleやPIXARが画期的な仕組みをつくることに期待しています。たとえばホログラムのような形で立体が浮かび上がっていて、そこに手を突っ込んで直接立体物をいじりながらモデリングするようなシステムが発明されることを夢見ていますね(笑)。

HZ モデラーさんと聞くと3D一筋で数十年やってきたような方を思い浮かべてしまいますが、熊谷さんのお話を伺ってるとハードウェアが手に入りやすくなったことで新たに3Dモデリングの道に進まれた方も多そうですね。まさに民主化が進んだことで産業にも変化が起きているというか。

熊谷 3Dプリンターはデジタルテクノロジーとしても比較的新しいので、自分のような人が多いと思いますね。自分は3DCGを扱いはじめたの自体3年前からなのですが、技術が進歩しているおかげで習得も早いのかなと思います。もちろん向き不向きもあるのですが、自分はたまたま3Dに向いていたので上達も速かったのかなと。

HZ 面白いですね。「3Dに向いていた」ってどういうことなんですか?

熊谷 さまざまな角度から全体の見栄えを考えなければいけないので、立体把握の能力は重要だと思います。あとはチマチマ細かい作業をずっと続けられるかどうかも(笑)。最初は平面のデザインと異なる部分が大きかったので苦手意識もあったのですが、実際は出力後に色を塗る作業でイラスト彩色の知識が活きてくるのも面白いですね。

岩屋 なるほどなあ。3Dプリンターのイメージが5〜6年前で止まっていたので、今日はすごく驚かされています。すごいことになっていますね(笑)。

 

3Dがアパレルを変える

 

HZ 遅沢さんや熊谷さんのお話を伺っていると、3Dプリンターの民主化が進んだことで、これまで立体作品をつくったことがなかったような方々も3Dモデリングを始めやすくなったのだなと感じます。同時に、以前からモデラーや造型師として活動されていた方も3Dモデリングへ移行しているものなんでしょうか。

遅沢 仲のいい原型師さんはかれこれ20年ほど粘土をこねて作業をされていて、人の形をつくるときは骨格から考えながらつくられていたんですが、その方も数年前から3Dへ移行していますね。そういう方は増えているんじゃないかなと思います。

岩屋 3D化はいろいろな業界で進んでいる気がしますね。いまアパレルの仕事が多いんですが、洋服のデザイン専門のモデリングソフトがあって、3Dでデザインすると自動的に型紙を起こしてくれるんです。昔のように手作業で絵を描いて型紙に起こすことがなくなってくるらしくて。

熊谷 わたしがフィギュアをつくるときも、洋服の部分だけは「Marvelous Designer」という洋服用のソフトでつくることがあります。

遅沢 いろいろなソフトを使いこなしてますよね。

熊谷 楽をしたいだけですけどね(笑)。ただ、リアルなフィギュアをつくる人はこのソフトを使う人が増えているんじゃないかと。こういった専門のソフトを使うほうが、自分がデザインしていると思いつかないような洋服のシワが生まれたりするんです。もっとも、ソフトでつくったデータをそのまま使うことはなくて、シワを取捨選択したり手作業で増やしたりすることでバランスをとっていくことが多いです。

岩屋 すごいですね。絵としての3DCGと、立体化するためのモデリングだとソフトの使い方も変わってくるものなんでしょうか。

熊谷 一緒だと思いますね。絵としての3DCGをつくるときはレンダリングが強いソフトを使うこともありますが、基本的な使い方や考え方は変わらないと思います。

 

 

広がりゆく活用領域

 

HZ 岩屋さんが仰っていたアパレルの事例は、これまで手描きでデザインを起こしていた方が3Dへと移行したということなんでしょうか。

岩屋 そうですね、これまで手作業でつくっていた人たちが勉強して少しずつ移行し始めている印象を受けます。もっとも、完全に移行するまでまだ10〜20年ほどかかりそうですが。ぼくがこれまで何度かコラボレーションした〈Hatra〉というブランドは完全にそちらへ移行していますね。この変化は革命的なものだと思うんですよね。これまで洋服をつくるときは型紙を工場に送り、それと合わせて縫い方の指定を細かく伝えていたわけですが、すべてファイルひとつで完了してしまうようになるかもしれない。同じことは、かつてグラフィックでも起きたわけです。グラフィックも以前はすべて手作業で色などを指定して印刷所に渡していたけれど、DTPの登場によってデジタル化したことで印刷所にファイルだけ渡せばそれですべて完成してしまうようになった。

HZ DTPのような呼び名がアパレルの場合も生まれてくるのでしょうか。意外と大きい会社から変化が始まっていく可能性もありそうですね。

岩屋 まだ特別な呼び方はないですけどね。いまもまだ工場には型紙に指示を書いて渡さなければならないので、工場が3Dデータに対応できるようになると大きく変わってくるんじゃないかなと。こうした変化はアパレル業界だけでなく、ぼくにとっても便利なものでもありました。たとえば総柄の洋服をつくろうとしたときこれまでは柄のシミュレーションを行なうのは難しかったんですが、3Dモデリングのソフトを使えば、どれくらいのサイズの柄になると洋服になったときにどんな見え方になるかなどすべて検証できるようになったんです。洋服に載せるグラフィックをつくって渡せばすぐモデリングしてイメージをつくれるようになったのは非常に便利です。

HZ 3Dプリンターというとフィギュアのような立体物の出力を考えてしまいがちですが、もともと3Dや彫刻に興味がある人々だけでなく、デザイナーやクリエイティブに関わる人々に広く3Dプリンターは広がっていきそうですね。

遅沢 実際、そういう方々は増えていますね。弊社のプリンターを買ってくださる方のなかにも、デザイン事務所やゲーム設計会社の方が増えていて。販売を始めた当初は趣味でフィギュアをつくっている方が多かったんですが、最近は法人の方やプロトタイピングを行なう人が増えてきているなと感じます。世の中には3Dプリンターの潜在的なユーザーがまだまだたくさんいるとぼくは思っています。3Dプリンターの面白さや利便性に気づいていないだけで、実際はもっとたくさんの人が使っていけるテクノロジーだと思いますから。弊社としては、そういう人たちをどうやって発掘していけるか考えていきたいと思っていますね。

岩屋 早く3Dプリンターが一家に一台あるような時代になってほしいですよね。子どものおもちゃなんかもすぐ出力できるようになればいいなと。

遅沢 壊れてしまっても3Dプリンターならすぐ出力しなおせますからね。弊社でも、お子さんが描いたイラストを3次元化してお送りするサービスを始めたら面白いのではと考えていました。

 

 

3Dプリントにおける「色」と「解像度」

 

岩屋 今回はトーテムポールのグラフィックを3Dプリンターで出力できたらと思うのですが、これを出力するとしたら何色がいいんでしょうか。

遅沢 レジンの色はグレー、白、黒、透明などベーシックなものからオレンジや緑などさまざまな色がありますが、ほとんどのユーザーさんは灰色か白で出力されていますね。灰色で出力してから自分で着色される方がすごく多いです。

岩屋 透明ってどれくらい透明になるものなんですか?

遅沢 レジンはアクリルくらいには透明になるんですが、3Dプリンターで使う場合は硬化剤を使う影響で黄ばみやすい傾向があります。ネイルで使うようなUVレジンだと60秒など時間をかけて硬化させるので硬化剤の量が少なくて済むのですが、3Dプリンターは9〜10秒紫外線を照射するだけで固まるようにしなければいけないので、硬化剤がどうしても多くなってしまって。

岩屋 灰色が無難かもしれないですね。

遅沢 そうですね。白や黒だと、凹凸が見えにくいので立体感が出づらいという懸念もありますね。白いレジンは歯科模型をつくるときに使われることが多いんです。マウスピース矯正などを行なうときに、きれいな歯並びに向かって少しずつ変わっていく歯科模型を20個くらい出力して、すべて型をとってマウスピースをつくるんです。それを徐々に入れ替えながら患者さんの歯にはめていくと、最終的に歯並びが整っていくという。

岩屋 なるほど、そういう領域でも3Dプリンターは使われてるのか。

遅沢 世の中にはフルカラーのプリンターも存在しているんですが、家庭で使えるレベルのモデルが出るまではまだ時間がかかりそうです。熊谷さんも以前使われていましたよね。

熊谷 以前使わせていただいたプリンターは、1,800万くらいするモデルでしたね……フルカラープリンターだと、どんな色でも出せるんです。紙のプリンターと同じようにCMYKで色を表現できるようになっているので。

 

 

岩屋 それは出力したあとに自動的に着色されていくものなんですか?

熊谷 いや、立体と同時に表面が着色された層が一緒に出力されていきます。表面の0.5ミリ程度が着色された層になっていて、その中は白くなっている感じです。ただやはりフルカラープリンターは高価なので、自分が作品をつくるときは原型を3Dプリンターで出力して塗ることが多いですね。

岩屋 今回は、凹凸の部分をどれくらい立たせるかなど細部を指定したIllustratorのデータをつくってお送りするのがよさそうですね。

HZ 熊谷さんから見てモデリングが大変そうな部分はありますか?

熊谷 いえ、どこがどれくらい飛び出てくるかの判断ができれば、モデリング自体はそこまで大変ではないですね。ただ、もしかしたら非常に細かい部分は潰れてしまうかもしれません。

岩屋 プリンターの精度ってどれくらい上がってるんですか?

遅沢 本気を出せば出ると思います(笑)。その分時間がかかってしまうので、時間とのバランスでしょうか。モデリングしたデータを出力するときの設定を変えることでバランスが変わってくるんです。そのプリンタとデータのベストなバランスまでもっていけるとかなり精度は高くなるのですが、一回出力するだけで10時間程度かかってしまうので、何度も出力しているとどんどん時間が経ってしまって……。

熊谷 最初は粗い状態でテスト出力して、そのあとで解像度を上げたりサポートの位置を変えたりして調整していくんです。解像度を上げるとその分出力の時間も増えてしまうんですが。

HZ 表面のテクスチャーが細かいとそれも時間がかかるものなのでしょうか。

熊谷 いえ、モデルの細かさは出力時間には関係ありません。ただし、オーバーハングになっているとか、サポートが必要な箇所が増えるほど難易度が上がります。今回つくろうとしているものだとそこまで難しい部分はなさそうですが、一度つくってみて調整していくのがいいかもしれないですね。

岩屋 なるほど、ありがとうございます。ではなるべく具体的なデータをつくってお送りしますね。よろしくおねがいします!

 

***

 

かくして3Dプリンティングをめぐる3人の会話は幕を下ろし、岩屋から3Dモデリングのために調整が加えられたデータがSK本舗へと送られた。3人の会話からわかるのは、この新たな技術がゆっくりとしかし着実にわたしたちの生活のなかに入り込んできているという事実かもしれない。

3Dプリンティングというとしばしば人はフィギュアや模型を思い浮かべてしまうが、アパレルや医療など広範な領域にこの技術は浸透していきつつある。もしかしたらわたしたちは知らずしらずのうちにこの技術の恩恵を受けながら暮らしているのかもしれない。

次回は3Dモデリングによって実際に立体化した岩屋の作品を見ながら、この新たな「ものつくり」の手段が生み出す可能性について考えていく。

 

GraphersRock

アートディレクター/グラフィックデザイナー岩屋民穂によるデザインプロダクション、インディーズからメジャーレーベルまでさまざまなCDジャケット、音楽まわりのデザインを手掛け、幅広い分野でアートワークを展開。さまざまな企業、ブランドとのコラボレーションを行ない、テン年代の東京ポップカルチャーのデザインを牽引、提示し続けている。

 

(文・もてスリム/写真・東山純一)

(取材協力:HAGAZINE https://hagamag.com/

 

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